アデルのノルウェー公演をレポート!


Adele @ Telenor Arena, Oslo, Norway
5月1日(日)20:00開演

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ゴールデンウイークの真っ只中、アデルを観にノルウェーはオスロへ。当日の午前に現地入りし、十分休息した後ホテルを出た。
大きなイベントが催される際には、市内の2カ所から会場直へのシャトルバスが運行しているのだが、その1カ所であるオスロ中央駅には開演3時間前にして長蛇の列がなされていた。次から次へとピストン輸送されるバスに乗りこみ、会場に着いたのは開演1時間前。スポーツ・イベントなどにも使用される2万人越えキャパのテレノール・アリーナは、話題のスーパースターを一目見ようと、まさに老若男女で埋め尽くされていた。ステージは全部で2つ。向かって正面の2階席前から3列目の席に着き、巨大なバックドロップに映し出されているアデルの閉じた瞳を見つめながら開演を待つ。

ドリンク購入のために並んでいた人たちにスタッフが着席を促し、10分おしでショーはスタート。先ほどまで閉じられていた巨大な瞳が見開いたと同時に「Hello」のイントロが鳴り響き、アリーナ中央に位置するステージの下からアデル登場! アリーナが一斉に起立し、歓声で埋め尽くされた。“ハロー”と歌う度にスクリーンの目が瞬きをする仕掛けになっていて、アデルの特徴的な重いまつげの魅惑に吸い込まれそうになる。歌い終わると早速次の曲「One And Only」に取り掛かり、本ステージへと観客の間の道をセキュリティに囲まれながら移動。そしてサビに入る直前でようやく垂れ幕にステージ上のアデルの姿が映し出されると、それまで血眼で米粒のような姿を確認しようとしていた私を含む観客の多くから安堵と興奮の声があがる。にこやかでフレンドリーにファンに手を振るアデルの姿は、スーパースターにして親しみやすさでいっぱいだった。パフォーマンス途中で目にした前列の号泣するファンが気になったアデルは、「ステージにあがってらっしゃい。そんなに泣かないの」と、まさかのステージへのご招待。あまりの嬉しさに言葉にならないラッキーなファンは、自分の名前さえも答えられない心理状態。そんな彼女に何度も優しくハグをして、「(ライヴに)無理矢理連れて来られて嫌々で泣いてるのかと思ったけど、安心したわ」と笑いを誘うアデル。続けて、はるばるブラジルからやってきたというファンにはセルフィーを一緒に撮るというサービスも。「いつかブラジルにも行きたいんだけど、すでに100公演以上予定が詰まってるから、それをやり終えて私の声がまだ出る状態だったら検討するわ!」。こんな具合に、ステージ付近の観客は終始アデルのサービス精神に翻弄され続けるのである。

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「ほとんど暗い曲ばかりだから、唯一アップテンポなのは次の2曲だけなのよ。だから一緒に盛り上がって、その後は一緒に悲しみに浸りましょう。笑」と紹介され披露したのが「Rumour Has It」と最新アルバム『25』から「Water Under The Bridge」。さらに立て続けに新曲「I Miss You」とボブ・ディランのカヴァー曲「Hometown Glory」をパフォーマンス。

この日の2日前にノルウェー入りしたというアデル。2歳になる息子と釣りをして捕った魚を調理して食べた話や、名前は思い出せないが最高のレストランで食事をした話、さらにはそのレストランで働くオーストラリア人ウェイトレスのフィフィがあまりに素敵だったため今晩のショーに招待したという身の上話などを曲と曲の合間で披露しては、ファンとの交流を深める。「今まではあまりツアーは得意じゃなかったんだけど、今ではどこへでも一緒についてきてくれる息子がいるからすごくエンジョイしているわ」。

続いての曲「Skyfall」についての裏話はこうだった。「最初に楽曲提供のオファーをもらったとき、恐れ多くて断ったの。歴代この映画に関わったアーティストの偉大さからや、『21』で大きな成功を手に入れたから世間は私が失敗するのを待っているってことなんか考えてたらとてもイエスとは言えなかった。でもその数ヶ月後に再び声をかけてくれて、どうしても首を縦にふらざるを得ない状況になったの。19歳で『19』を、21歳で『21』を、そして25歳で『25』を完成させてきた私にとって数字に意味をもたせることは重要なことだったの。そんな私は当時23歳、そしてなんとボンド映画も23作目。『だからどうしてもあなたじゃなきゃダメなんです』ってソニー・ピクチャーズの人達に説得されたらもうやるしかなかったわ! 結果的にオスカーを頂いちゃったからやって良かったんだけどね」。

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それから3曲はアコースティック・セッション。自身が最も好きなアーティストでカントリー・ミュージシャンのアリソン・クラウスに憧れて取り入れたというアレンジ。ステージ前方にスツールを置き、ギター、ベース、バック・コーラスのみのシンプルなスタイルで「Million Years Ago」「Don’t You Remember」「Send My Love」を披露。アデルを構成していくのに欠かせない、幼少期に聴いていた曲のほとんどを手がけたスウェーデン人プロデューサー、マックス・マーティンと初共作となった「Send My Love」のギター・フレーズは、15年前に完成していたという。今日はネイルを施しているためギターは高校時代からの友人でバンドのギタリストのベンにお願いした。

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次いての曲は、常にその時起こった衝撃的なニュースに捧げてきたという。「例えばブリュッセルのテロ、パキスタンでのテロ、それからプリンスの死。だから今日はこの曲を、愛するものを失った経験のある人全てに捧げるわ」と紹介されたのが「Make You Feel My Love」。携帯電話の明かりを灯すようにというアデルからのリクエストにより、会場が神々しく輝く。それに続いて披露されたのが、アデルにとって今最も愛する存在で、不屈の愛を象徴する息子のために書いたという「Sweetest Devotion」。「この先何が起ころうと、彼を守り、愛し続け、そして彼がいることで何事もポジティヴなものに捉えることができると信じているわ」。

再びステージを移動してここでデビュー曲「Chasing Pavements」。「いつもみんなでシンガロンしてきた曲で、今の所グラスゴーがトップだけど、オスロの力を見せてちょうだい」とアデル。正直、英語圏の国に比べるからなのか、オスロの観客は非常に大人しく感じた。大合唱やコールアンドレスポンスのタイミングですかさず自分アピールをしたがる典型的な欧米人の精神を持ち合わせておらず、どちらかというと控えめな日本人より。ということでもちろんグラスゴーにかなうわけはなかった。ちなみに以前スコットランドの音楽フェスを体験したとき、開演前に流れているBGMをでさえ会場一体となって大合唱、公演がスタートしたらアーティストの声をかき消すぐらいの勢いで熱唱していた地元音楽ファンが印象的だった。そんな強敵が相手じゃ、残念ながらノルウェーは手が出なかった。

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いよいよ本編も大詰め。「この次の曲を書いた時、私の世界は痛みにあふれていて、この曲を書くことによって前に進むしか術はなかった。初めて完成した曲をマネジャーや母親に聴かせた時、明らかにこれまでの曲と反応が違ったから、自分にとってもみんなにとっても特別な曲であることは間違いないの。だから良かったら一緒に歌ってください、『Someone Like You』」。お待ちかねの大のヒットナンバーに、一同しっとりと酔いしれた。そして「ありがとう、おやすみなさいオスロ」と一礼したかと思うと、突如アデルのステージに大雨が降り注ぐ! 実際には水ではないのだが、遠くから見ると大雨の中心に立っているかのように見える。もちろんこの曲「Set The Fire To The Rain」のためのセットだ。バラードから一変、胸を打つビートとダイナミックなバンド・サウンドで1時間半におよぶ本編は終了した。

お着替えすることなくアンコールのため本ステージに再登場したアデルは、グラミー賞でテクニカルな問題に見舞われ、いわく「人生最悪のパフォーマンス」に終わったという「All I Ask」について語った。「NYで出会った女性に幸運のクリスタルを以前頂いて、これまでは必ずパフォーマンス時にはそれを身につけていたんだけど、今年のグラミー賞の前日にそのクリスタルを紛失しちゃったのよ。そしてその結果があれよ」と、意外にも迷信やお守りを信じるタイプということに驚かされる。もちろん、この日のパフォーマンスはクリスタル無しでも文句無しの出来栄えだったことはいうまでもない。そしてアデルが「自分の曲の中でも一番好き」と話したのが続いて披露された最新アルバムからのセカンド・シングル「When We Were Young」。「どの作品にも必ず1曲自信曲っていうのがあって、『19』だったら”Hometown Glory”、『21』だったら”Someone Like You”、そして『25』だったらこの曲なの」。タイトル通り、若かりし頃の思い出に浸るため、スライド・ショーでアデルの実際の幼少期の写真が映し出される演出が。最後の1枚にモノクロで大きなお腹を大事そうにかかえる妊婦時の貴重な写真が入っていたのが印象的で、思わず観客からも拍手があがった。
そしてアンコール最後の曲はお待ちかねの「Rolling In The Deep」。会場の照明をつけ、明るい中紙吹雪が打ち上げられ、最後はステージに吸い込まれるように姿を消したアデルなのであった。全17曲、2時間におよぶ夢のような時間が幕を閉じた。

今回生で体験することで、改めてアデルが世界に愛される存在であることに納得した。歌声や楽曲が素晴らしいのは重々承知だったが、その人柄や言動に”良い人オーラ”があふれていて、イヤらしさがひとつも感じられなかったからだ。2歳児を連れての長距離の移動はハードルが高いかもしれないが、いつの日か彼女が日本のオーディエンスの前で歌ってくれる日が訪れることを切に願う!

セットリスト

1. Hello*
2. One And Only**
3. Rumour Has It**
4. Water Under The Bridge*
5. I Miss you*
6. Hometown Glory***
7. Million Years Ago*
8. Don’t You Remember**
9. Send My Love*
10. Make You Feel My Love**
11. Sweetest Devotion*
12. Chasing Pavements***
13. Someone Like You**
14. Set Fire To The Rain**

15. All I Ask*
16. When We Were Young*
17. Rolling In The Deep**

*アルバム『25』収録曲
**アルバム『21』収録曲
***アルバム『19』収録曲